株式会社Arch5 代表取締役 小俣 光一 氏
取締役 井熊 正 氏
BIM マネージャー 東尾 勝則 氏
RC 梁の貫通許可範囲をBIM モデル上に表示
東京・秋葉原の電気街の一角にオフィスを構える建築設計事務所、Arch5 のワークステーションにはもはや2次元 CAD はインストールされていない。2010年9月の会社設立以来、ARCHICAD を中心とした BIM モデルベースによる設計業務を行っているからだ。
Arch5 代表取締役の小俣光一氏は「ARCHICAD は操作性とスピード感が優れているため、以前、務めていた事務所時代から使っていました。そのため Arch5 設立当初から2次元 CAD は使わず、ARCHICAD による BIM ベースの業務を行っています」と説明する。
現在の所員は5人。うち4人の設計者は、小俣氏を含めて全員が BIM を活用している。オフィスには ARCHICAD 用の BIM サーバーを設置し、島根県や中国・上海の協力事務所とも連携しながら BIM によるプロジェクト進行が行える体制をとっている。
「もちろん、設備設計や構造設計は他社にお願いしていますが、その成果品は BIM 用のデータ交換フォーマットである IFC 形式で納品してもらいます。そして最終的には社内で意匠、構造、設備の BIM モデルを統合しています」と小俣氏は言う。
水回りがガラリと変わったマンションリフォーム
意匠だけでなく構造や設備と一体化した BIM 活用の強みを生かして、Arch5 ではユ ニークなプロジェクトの数々を手がけている。
その一例があるマンションの 4LDK をオール電化仕様の 3LDK にリニューアルしたプロジェクトだ。これまではなかった給湯器「エコキュート」や床暖房を新たに設置したほか、和室をキッチンに、キッチンをトイレにと、大がかりな水回りの設計変更を伴う大工事だ。
Arch5 ではまず、既存の図面を ARCHICADで BIM モデル化し、50分の1縮尺の図面を作った。そして新たな間取り案を ARCHICADで設計し、同時に排水勾配などを考慮した給排水管などを設備用 BIM ソフト、Rebro で設計したのだ。そのため、既存の床高の範囲で大がかりな水回りの設計変更も実現した。
「リフォーム工事では、主婦の要望をうまくくみとり、設計に盛り込むことが必要です。そこで設計案は図面でなく、3D モデルを使って説明し、その場で確認してもらいました」(小俣氏)。
このマンションは壁構造だったため、構造部分である耐力壁を壊さないようにリフォームすることが求められた。また、エコキュートの新設では、本体以外に数百キログラムのお湯をためる貯湯槽もあるため、既存構造でもつかどうかの検討も必要だった。
結果的には、エコキュートは既存の床荷重の範囲内に収まることが確認できた。最終的な設計案は、既存のスリープ穴を利用したダクトなどの設備も含めて、フルカラーの 3Dプリンターで模型化した。
リフォーム工事の設計を管理組合に説明するときも、意匠、構造、設備を統合した BIM モデルや 3D プリンターで作成した模型のおかげでスムーズな合意形成につながった。
高低差のある大規模マンションの検討にも威力を発揮
1500戸のマンションの事前検討業務では、土木プロジェクト並みの大規模な BIM モデルを ARCHICAD で作り、様々な検討シミュレーションを行った。
長さ約2km×奥行き約1kmという起伏のある広大な敷地の数値地図データをARCHICAD に読み込み、3D モデル化し、その上にマンション全体の BIM モデルを構築したのだ。
「高低差が5~7mある敷地にマンションを計画すると、どうしても半地下部分の区画を作らざるを得ません。地下部分の割合に応じて住戸にするか、それとも駐車場にするかという検討を ARCHICAD で行いました。500分の1スケールの模型だと高低差はわずか1~2mmとなり、とても検討できませんが、ARCHICAD だと自由自在に拡大し、視点を変えて確認することができました」(小俣氏)。
また、マンションでは住戸からの眺望が売れゆきを左右する。「5階から周囲の景色が見えるか、前の建物が近すぎて視界が閉鎖的にならないかといったことも考慮しました」(小俣氏)。
当社のまちづくり計画業務において、 BIMxによるウォークスルー、及び BIM モデルを利用したムービー作成は社内で作成することが通常業務となっている。社内で対応することにより、計画変更にも素早く対応できる。
このほか、あるオフィスビルでは1階の階段部分周辺を花壇のようにデザインするとき、ARCHICAD による 3D 設計が大いに力を発揮した。
「2D 図面で検討していると、花壇部分を支えるために大きな擁壁を作るという設計になりがちですが、ARCHICAD に構造部材を入力して 3D で検討すると、各部分のレベルの違いが分かりやすく、小さな擁壁2つを組み合わせた設計が実現しました。結果として、コスト削減にもつながりました」と Arch5 の BIMマネージャー、東尾勝則氏は説明する。
Arch5 では一貫構造計算ソフトのデータをARCHICAD と連携させるため、データコンバータソフトなどを使っている。一貫構造計算ソフトのデータが、容易に鉄筋の配筋まで 3Dモデル化され、瞬時に再現できるので、無理な配筋がないか、設備スリーブ位置など、視覚的に判断可能となる。当社にとって、 ARCHICADを中心とした BIM 設計がいかに有益かを実感できる事例の一つである。
BIM モデルをサッシメーカーに提供し気流解析
現在工事中のプロジェクトでは、Arch5 が作成した実施設計レベルの高精度な BIM モデルをサッシメーカーに提供し、メーカー側で熱流体解析(CFD)によるシミュレーションを行った。
その一つは放射空調の気流解析だ。実施設計レベルの BIM 3D モデルを利用することにより、気流解析用にモデルを一から作成する工程を省けたため、短期間での検討が可能になった。動画で気流の動きを確認することにより、放射空調システムが有効であることを視覚的に判断できたのだ。
また、縦型低風量換気スリットによる自然換気のシミュレーションも行った。「メーカーの担当者によると BIM モデルで気流解析をした事例は数件あるが、そのほとんどは企画レベルの BIM モデルであり、実施設計レベルの BIM モデルを用いた気流解析は事例がないという。すでにある実施設計レベルの BIMモデルを使用できたため、新たにモデル入力をする必要がなく、より正確な気流解析ができたと聞いた」と東尾氏は説明する。
積算用テンプレートも建物種ごとに用意
BIM モデルを積算に生かせるのも、Arch5ならではの強みだ。取締役の井熊正氏は建築積算士の資格をもち、そのノウハウを生かして同社では建物の種類ごとに ARCHICAD のテンプレートを作成している。
「マンション、オフィス、商業ビルと、それぞれに適したテンプレートを作りました。建築部分の8割は、ARCHICAD のモデルから集計された数量で見積書を作れるので、手作業による転記ミスなどを大幅に減らすことができます」と井熊氏は説明する。
このほか、最近、依頼が多いのは日影や斜線などの制限をクリアして、最大限に建物が建てられる“鳥かご”と呼ばれる 3D メッシュを利用して検討する企画(ボリュームチェック)業務だ。
「一般の設計事務所なら1物件あたり1~2週間かかるところですが、当社では ARCHICADを使って検討するので、月に4~5件の企画業務をこなすことが可能です。その“鳥かご”に合わせてボリューム検討を行った結果、予想以上の面積がとれることがわかり、見送られると思っていたプロジェクトが実現したこともありました。平面図作成と同時に初期段階のパースも提示できるので、依頼主には大変好評です」と小俣氏は振り返る。
経営トップ自らが ARCHICAD を使うArch5 の BIM 活用力には定評がある。そのため、新築プロジェクトから耐震補強工事などの設計実務のほか、BIM 導入のコンサルティングから、GDL による BIM パーツの作成依頼まで幅広い BIM 関連業務か飛び込んでくるほどになった。
「BIM を使えば少人数の設計事務所でも、大きなプロジェクトができる。今後はさらに大規模なマンションや商業施設・オフィスから、大規模なまちづくり計画まで、さまざまな設計に、当社の BIM 力を生かしていきたい」と小俣氏は語った。
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