「ストーリー」と共に提案する意味
株式会社 AMD 代表取締役 中藏俊明 氏
「インテリアデザインといっても単にデザインではなく、そこで“誰に・何を・どのように”提供するのか、1つのストーリーとして提案するのが私のスタイルです」。そう語る中藏氏は、以前は国内商業施設を中心に活動していたが、2006年の韓国でのコンペをきっかけに中国などアジア圏の案件を手がける機会が急増した。折しも中国では一時の急成長に歯止めがかかり、都市開発等もそれまでとは異なる流れが生まれていた。中藏氏独自のスタイルが、その新しい中国市場にフィットしたのである。
「たとえば去年暮れから始まった、北京郊外の商業施設のプロジェクトなど典型的です」。そういって見せてくれたのは、高層ビルとコの字型に並んだオフィスビルが、大きなサンクンガーデンを囲んで立ち並ぶ大規模な商業施設のプランだった。
「この高層オフィスビルは既存建物で、既に歯抜け状態でした。オーナーはその後側にコの字型にビルを建て、下を商業施設にしようと計画していました。私たちは途中から参入したのですが、物件自体の条件が非常に悪かったのです」。商業に不向きなロケーションに加え、商業エリアがオフィスビルに隠されて外から見えず訴求力が弱く、繋がりもないため集客も望めない状態だったのだ。中藏氏によれば中国では間々あるケースで、オーナーが不動産会社で商業のノウハウがないまま、まずハコありきで建物を建ててしまったのだという。
「とにかくマーケティングもほとんど行われてないので、我々が独自にロケーションを調査分析して課題を抽出し、ターゲッティングやマーチャンダイジングまで行ってプランを練り上げました」。それは街道側の駐車場外周に大きなアーチをかけ、サインを付けて外部にアピール。さらにビル群に囲まれた中央エリアに、人を呼び込む仕掛けとしてサンクンガーデンを設け、地下に商業施設を展開しようという大胆なプランだった。マーケティング分析から顧客回遊路や商業構成、多様なビジュアル等々、ARCHICADを駆使して中藏氏が作り上げた提案書は数十ページに及んだ。
「しかし、お客様に伝える上で何より大きな威力を発揮したのは、実はARCHICADによる多彩なプレゼンなんですよ。今回もこれを使うことで、提案内容を明確に伝え、私たちの意図を正しく受け取ってもらうことができました。その意味で、アジアを主戦場とする私たちにとって、ARCHICADによるプレゼン手法は無くてはならない武器なのです」。
“なぜこういうデザインなのか?”
「中国に限らず、素人の顧客にデザイン提案をすると、どうしても“好き嫌い”で判断されてしまいがちです。もちろん相手が好きな所を察して取りにいくのが我々の仕事なのですが、そこがなかなか難しい。だからARCHICADが必要になるんです」。つまり、デザイン単体でなくそれが構成する空間全体を見せ、空間認識をしてもらうことで “なぜこういうデザインなのか”理解してもらうのだ、と中藏氏は言う。そこをきちんと伝えることで、顧客もそれが単純な好き嫌いを超えた必然だと受け止めるのである。
「この位置からはこう見える、ここからはこれが見えない。だからこれはここに置くのが一番良い等々、ARCHICADでウォークスルーなど駆使して多彩にシミュレーションしながら見せることで、スムーズに空間認識し納得してもらえるのです」。
さらにデザイン提案の背景となっている商業施設としてのコンセプトに対する早い段階でのクライアントの理解も、マーケティングや商業施設運営のノウハウが少ない今回のようなケースでは非常に重要になる。中藏氏が得意とする「ストーリー」と、これを印象的に伝えるARCHICADによるムービーが重要性を増すのである。
「なぜこういう商業構成になり、配置になり、デザインになるのか。それはやはりコンセプトとそのプロセスの流れを持って伝え、理解してもらう必要があります。そこで重要になるのは一連の明快なストーリーとして見せることによって生まれるインパクトです」。企画書とパースや図面によるプレゼンテーションでは、説明はクライアント側との質疑応答でしばしば寸断され、1つの流れを持って伝えることは難しい。多くの場合、提案内容が持っていたインパクトは消えてしまい、焦点の曖昧な印象だけが残って「伝わらない」のである。
「だから今回もコンセプトをストーリーで見せるムービーを作り、最初にお見せしました。まず概要を把握してもらうことで提案の中身を理解しやすく、受け入れやすくしたんです。これが功を奏し非常によく理解してくれました。まあ、理解しすぎて“ここまでやらなきゃ成功しないのか!”と驚かれ、困惑されてしまいましたが」。
デザインも見せ方もより新しく
現在、AMDのビジネスは、7〜8割までが中国を中心とするアジア圏のプロジェクトになっている。もちろん日本とは比較にならないマーケットの大きさとチャンスの豊富さは大きな魅力だが、当然ながら、決して甘い世界ではない。
「いまや各国のデベロッパーやデザイナーが参入して競争は熾烈です。デザインも見せ方も、より高度なものが求められます。それでいて紹介した案件のような、過度なプロジェクトも多々あって大変なんですが、“なんでもあり”のこの世界が、実は私は好きなんですよ。実際こういうプレゼンを月1〜2回は行っています」。そういって笑う中藏氏は、当然、毎月のように中国・アジアへ渡っている。携えていくプレゼンツールはもっぱらiPadとノートPCだ。中国でのプレゼンは現場で行うことも多く、そういう時はiPadとARCHICADがきわめて効果的なのである。しかし、それだけで勝ち抜けるほど簡単ではないのも事実。“日本だから進んでいる”などという認識はもはや20年前の昔話に過ぎないのである。
「とにかくあちらでは、デザインも新しいもの新奇なものを求められます。特に当社が取引している企業など、年に10〜20店舗も新しい商業施設を出店したり改装したりしているので、常に新しいデザイン提案を要求される。そして、プレゼンでは欧米の会社が表現もアピールも圧倒的に上手い。そんな中で私たちが勝ち残っていくには、ARCHICAD等をいかに使いこなすかも重要なポイントです。今後はプレゼンなら映像をメインにしたムービーを見せるだけで完結できるような形に持っていきたいし、デザインワークにも初期段階の検討などに積極的に活用していきたいですね」。
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