大旗連合建築設計株式会社
施主の「満足感」向上を目指し 若手設計者がBIM普及を加速! 全プロジェクトでBIMを活用中

大旗連合建築設計株式会社

広島市の大旗連合建築設計は、意匠・構造・設備・監理の4部門を擁する広島有数の組織設計事務所である。創業70年余の歴史の中で、医療福祉・教育文化施設から庁舎、商業施設、オフィスビルなど公共性の高い建築物を中心に幅広い建築設計を展開。地域の厚い信頼を獲得している。早くからCAD化を実現するなど新技術の積極的な導入でも知られ、BIMについてもBIM元年と呼ばれる2009年にいち早くArchicadを導入し、活用を開始している。その取り組みについて、大旗社長と伊藤氏、高橋氏、兒玉氏に伺った。

大旗連合建築設計株式会社

WEBサイト:http://oohata-arch.co.jp/

所在地:広島市中区

代表者: 代表取締役   大旗 祥

設 立 :1948年

業務内容:

一般建築物の設計・監理及びコンサルティング、耐震診断、耐震補強設計・監理 ほか

BIMはプレゼンだけのものではない

大旗連合建築設計株式会社
代表取締役
大旗 祥 氏

「当社がBIM導入に着手したのは10年ほど前のことです。いわゆるBIM元年の2009年頃から興味を持ち始め、すぐにArchicadを導入しました」。そう語るのは、大旗連合を率いる社長の大旗祥氏である。大旗氏によれば、同社はもともと「新しいもの」への関心が高く、先進的な技術に積極的にチャレンジする方針だった。「そうしないと、いつか取り残されてしまいますから。特に建築設計分野の新技術導入には注力しています。実際、手書きからCADへの移行も、地域で最も早く取り組んだ一社でした」。BIMソフト選定にあたっては、代表的な製品3本をピックアップし皆で比較検討を行なった。そして最終的に選んだのがArchicadだったのである。

「いろいろ比較しましたが、Archicadの選定ポイントは、まず使い勝手の良さ。そして、周りにArchicadユーザーが多数いたことも大きかったですね。操作や活用法をいろいろ教えてもらえますから」。こうしていち早くBIMソフトを導入したものの、だからといってすぐBIMへ移行できたわけではない。特に導入当初はプレゼン用途がほとんどで、図面は従来通り2D CADで作っていた。当時はそれで十分効果的だったのだ。当時、プロポーザルにArchicadで挑んだ髙橋氏は語る。

「あれは自治体発注の店舗・休憩施設のプロポーザル案件でした。私はそのプロポーザル部分だけお手伝いしたのですが、ムービーを作り受注を勝ち取ったのです」。同案件は幹線道路沿いに建設予定の店舗・休憩施設だったため、高速道路からアクセスする時の建物の視認性が重要になる。そこで髙橋氏はアクセス時の建物の見え方をシミュレートし、Archicadでムービーを作成。プレゼンテーションの席で流したのである。「制作には10数時間かかりましたが、非常に好評でした。ただ、自治体発注のプロポーザルでは前例のない手法だったためか、受注には成功したものの、以降そこのプレゼンでは動画使用禁止になってしまいました(笑)」(髙橋氏)。

2D/3D併用で現場でもBIMを活用

結局、この案件でもBIMはプレゼン用途の活用に留まったが、やがてArchicadで作った3Dモデルを見ながら2Dで図面を描く“2D/3D併用”スタイルが生まれ、急速に普及していった。この手法を活用した当時のBIM案件としては広島和光本社ビルがある。「施工図まではできませんでしたが、ここで初めてプロジェクト後半までBIMを使いました。3Dモデルで確認しながら2Dで図面を描き、同時にモデルも更新して内装の確認等に用いるなど、二本立てで現場までやりきりました」(大旗社長)。

しかし、この二本立てもまた、本来のBIM運用からはかけ離れたものであることに変わりはなく、この頃から若手を中心に“なんとかして基本図や実施図もBIMで作りたい!”という気運が高まっていった。だが、なかなか具体的なアプローチの仕方が分からなかったため、会社のネットワークを駆使してBIM先駆者のゼネコンや大手設計事務所に接触。教えを請うことにしたのである。やがて、同社はある大手ゼネコンのグループ会社を紹介された。この会社は現場管理を中心とする現場支援のプロ集団で、業務の一環としてBIMで施工図を作成していた。そして、大旗連合の要望を受け勉強会を開催してくれたのだ。当時、この勉強会に参加した設計部の兒玉氏は語る。

「その会社もArchicadを使っていたことから、具体的なノウハウを教えていただけたんです。たとえば我々の大きな課題だった、BIMで実施設計まで進めるには、どんな仕様でやるべきか。実際の3Dモデルも見せてもらって環境設定等についても詳しく教わり、これが非常に勉強になりました」。兒玉氏らは、このようにして学んだ内容を会社に持ち帰り、これを設計部内で共有。少しずつArchicadによる作図ノウハウを蓄積していった。そして、大旗連合のBIMチャレンジはいよいよ大きな転機を迎える。

広島和光本社 外観1

もう「できない」なんて言えない

「BIMがプレゼンだけのものではないことは分かっていましたし、私たちもずっと、基本図から実施設計までBIMで進めたいと思い続けていました。そんな当社にとって大きな転機となったのが2017年。この年、私たちはある大手ゼネコンと共にBIMプロジェクトを進めることになったのです」。大旗氏によれば、それはある新聞社の地方本社ビルの新築プロジェクトだった。その大手ゼネコンが施工を、大旗連合が設計を担当することになったわけだが、実はそのゼネコンは前述したBIMの勉強会を開催してくれた現場支援企業の親会社で、やはりArchicadユーザーだったのである。もちろんBIMの実践的な活用に関して、同社は大旗連合のはるか先を進んでいたが、「施工現場における本格的なBIM運用経験」の蓄積を押し進めており、早く現場でBIMの本格的運用を実現したい大旗連合と、この現場における狙いが一致したのである。

「具体的なBIMの取り組みとしては、まず当社が基本設計を行なってBIMの基本図に相当する図面を2Dで描き、これをArchicadでBIMモデル化。さらにこの3Dモデルを使って、実施設計を進めていきました。この時は不明な点はBIMで先行していたゼネコンに教えを請い、試行錯誤しながら……それでも何とか実施設計までたどり着いたことで、当社の社内でも“実施設計もBIMでやれる!”という気運が一気に盛り上がりました」。停滞していたBIM活用の取り組みに「火」が付き、社員の動きも急激に活性化していった。たとえば兒玉氏はこのプロジェクトの直接の担当ではなかったが、それにも関わらず担当者に同行して現場に入り、ゼネコンのBIM担当に質問をし続けたという。兒玉氏は語る。

50歳過ぎで初めてArchicadに触れたという

大先輩をたくさん目のあたりにしてしまうと

もう絶対に「BIMができない」なんて言えない

「実は同時期に広島で“ヒロシマBIMゼミ”というBIMユーザーの集まりに参加して、非常に刺激を受けたばかりで……つい無理を言ってその現場へ同行させてもらったんです」。この「ヒロシマBIMゼミ」とは、広島の大学准教授やBIMユーザーの建築家を中心に開催される、BIMに関するオープンな意見交換の場。Archicadユーザーはもちろん他社ソフトの使い手も含む多数の建築関係者が参加している。そこへ兒玉氏も顔を出していたのだ。「“達人”と呼ばれるArchicadのディープユーザーもおられるので、ノートPCを持参してその場で開き、質問して──みたいなことを繰り返すうち、どんどん“自分もやらなければ!”という気持ちになってきたのです。ちょうどその頃、話に出ていたゼネコンとの協業BIMプロジェクトが始まったわけです」(兒玉氏)。一方、グラフィソフト主催イベントで同様の刺激を受けたと言うのが髙橋氏だ。

広島和光本社 外観2
広島和光本社 3D断面

「それは福岡県で行われた“USERFEST 志賀島”というイベントで、私も非常に多くのArchicadユーザーとお会いしたのですが、驚いたことに、講師の方も含めて、私よりずっと年上の方が思ったよりたくさん参加されていました。しかも、話を聞くと、その多くがArchicadで普通に実施図を描いているということでした」。それは凄いほどの衝撃だった、と髙橋氏は当時をふり返る。「45歳で始めたとか、50歳で初めて触れたという大先輩がたくさんいるわけです。もう“これはヤバいな!”と思いました。私なんかずっと若いのに、いったい何をやってたんだろう、と。もう“出来ない”といって逃げる理由が全く無くなってしまったわけで。完全に退路を断たれた(笑)感じでした」(髙橋氏)。
 こうして若手を中心に、大旗連合のBIMの取り組みは急激に本格化していった。そして、動きをさらに加速したのが、大旗連合自身の本社移転計画と、これと同時に立上がったBIMプロジェクトチームの活動だ。

BIMプロジェクトチームの開設

最初の目標はBIMで意匠図を描ききること

20〜30代の若手設計者を結集した

BIMプロジェクトチームの多彩な普及&支援

「現在、当社は広島市中区に本社ビルを構えていますが、建物も古くなって使い難くなったため、近くのビルを買い取って全面的にリニュアル。その上で移転しようという計画で、時期は2021年5月の予定です」。そう語るのは、同社の営業部門を率いる企画統括室の取締役部長 伊藤智宏氏である。伊藤氏によると、この移転を機に旧式化していた社内システムや業務スタイル、ルール等を一新するため、社内に複数のプロジェクトチームを立上げたのだと言う。そして、その中の一つがBIMの社内普及と活用を支援する“BIMプロジェクトチーム”だった。中心メンバーとして選ばれたのは、もちろん髙橋氏と兒玉氏である。髙橋氏は語る。

「チームは私と兒玉さんを含め、ほぼ20〜30代の若手からなっていて、設計現場のBIM活用を幅広く支援しながら全社へ水平展開していくことをミッションとしています」。髙橋氏によれば、同社設計部の意匠部門は3チームあり、それぞれ設計者8名で構成されているが、その3チームそれぞれに各1〜2名ずつ、BIMプロジェクトチームのメンバーを配置したと言う。「各メンバーはBIMプロジェクトチームで研究した内容を自身の意匠設計チームに持ち帰って広め、またプロジェクトが動き始めたら、その案件でどのようにBIMを活用するかを考え、支援していくわけです」。意匠設計チーム以外に構造チームや設備チームもあるが、こちらへもそれぞれプロジェクトメンバーを配置しているので、いずれは構造や設備とも連携を取ってトータルにBIMを展開していく計画だが、まずは「意匠図を描ききること」を目標にさまざまな取り組みを始めている。

比治山学園 新3号館 改築プロジェクト3D断面
新事務所 内観イメージ

「たとえば、それまで各設計者が個々に蓄積していたBIM活用ノウハウを整理統合し、分かりやすくまとめる作業も進んでいます。具体的にはBIMテンプレート環境の構築ですね。これをきちんと整えて全社へ普及させていこうというわけです」と兒玉氏は語る。また、他方ではBIMとArchicadに関する質問に応え、疑問を素早く解消するためのFAQシステムの構築も進行中だ。「蓄積したFAQはもう100件ほどになり、かなり充実してきました。ひと通り廻ってもらえば、きっと誰かが解決済みの答えへと行き着けるでしょう。どうしても解決できない時は電話で問い合わせてもらい、解決できたらその回答をまた書き込んでもらう──という形でさらに充実させていく計画です」(兒玉氏)。

最後の最後まで描き込み&検討できるメリット

こうして大旗連合におけるBIMの活用は急速に広がり、現在では進行中のプロジェクトのほぼ100パーセントで「何らかの形」でBIMを使用するようになっている。もちろんプロジェクトそれぞれの規模や内容、担当設計者によりBIMの活用範囲はさまざまだが、同社がBIM活用のブレイクスルーを果たし、一段ステップを上ったのは間違いないだろう。

「以前は“やろう!”といいながら、みんな図面を描くのに忙しくてなかなか進みませんでしたが、この一年ほどはみんな一所懸命やり始めていますね」。そう語るのは伊藤氏である。「当社では通常18〜20件程度のプロジェクトが動いていますが、トータルなBIM案件として動かしているのはそのうち6件ほど。その他の案件では、BIMはプレゼンや確認に使う程度で図面は2Dで書いています。営業の立場としては、もう全プロジェクトをトータルなBIM案件として動かしてほしいのですが……なかなか一気に切り替えるのは難しいようです」。そう言って伊藤氏は苦笑いを浮かべる。裏返せば、そんな風にこぼしたくなるほどBIMの威力は絶大なのである。伊藤氏はさらに言葉を続けた。

「とにかく、BIMというのは、お客様にとって良いことづくめなんです。おそらく一度でもBIM案件を体験したお客様は、二度と2次元には戻れません。もし2度目のプロジェクトで“今回は2D CADで進めます”なんて言ったら、私が怒られてしまうのではないかと思いますね」。それくらいお客様の満足感が違うのだ、と伊藤氏は断言し、ある眼科クリニック新築プロジェクトの事例を紹介してくれた。「このお客様はクリニックを建てるのは2度目。他に自宅も建てておられるので、建物づくりは3度目という方でした。前回は他社で建てられたんですが、その経験があったせいか、参考資料としてご自身で建築の写真をたくさん撮って見せてくださり、“こういう建物にしたいんだ!”と熱意や要望を伝えてくるような方なんです」。伊藤氏がそう言うと、実際にそのプロジェクトを担当した髙橋氏が笑みを浮かべながら話してくれた。

社内設計レビュー

(左より)髙橋智彦氏(設計部 課長)、大旗祥社長、
伊藤智宏氏(企画統括室 取締役部長)、兒玉亮太氏(設計部 課長)

「眼科医だからでしょうか、そのお客様は建築に対しても非常に視点が細かいんです。BIMxで3Dモデルを見ながら打ち合わせしていると、平気で“あの壁を取ってみて”などとおっしゃる。それも度々です。で、直して、またBIMxでモデルをお送りすると、自宅でご覧になってすぐにLINEや電話で“やっぱりあそこは変えたい”と新しい指示が来る。そういう変更指示とそれへの対応がずっと続きましたね」。髙橋氏によれば「プランはこれで固めます!」と宣言しても変更指示は止まず、実施図の作図が完了する2週間前まで続いたという。「ずっとBIMベースで進めていたから対応できたわけで、2Dだったらとうてい間に合わなかったでしょう。変更のたびモデルを直しBIMxで確認してもらう流れで、ひたすらモデルを作り込めたのが大きかったですね」。

よく言われることだが、2D設計は図面化作業だけで終ってしまいがちだ。しかし、3DのBIM設計ならば、最後の最後まで描き込みながらとことん検討できる。設計者にとっても、施主にとっても、このメリットが限りなく大きいことがお分かりいただけただろう。

「連合」という言葉に込められたもの

BIM活用におけるブレイクスルーを果たし

全案件で何らかの形でBIMを使用

その1/3はトータルなBIMプロジェクトに

「設計品質は、間違いなく向上しています。それも非常に大きく」と大旗氏は、BIM導入効果に関してそう評価する。「たとえば社内のデザインレビューも以前は定例的に行う習慣がなく、正直けっこう担当者任せだったんですが、今ではプロジェクトごとに行うようになりました。それもプロジェクト起動時と基本設計、実施設計の最終確認、そして竣工後の計4回ずつ行っています」。以前は図面が読めなければ参加できなかったが、いまはBIMでビジュアルにレビューしているので、設計者はもちろん営業スタッフ等も積極的に参加し意見を出してくるようになった。結果、社員の多くの「建築を見る目」が一段と上がり、ハイレベルなチェック機能として効果を発揮しだしたという。「プロポーザルなど短期間で形を決めて提案する必要がある時なども、本当に有効なツールだと実感しています。複数のパターンを並行して検討し、選択していく時、レビュー的に多くの人から意見をもらいやすいんです。結果、こちらも多くの人の目で磨かれてデザイン力が向上していくわけです」。

小浦眼科 新築プロジェクト 内観イメージ

小浦眼科 新築プロジェクト 外観イメージ

一方、伊藤氏は「もうBIMをやってないと競合には勝てないだろう」と、営業としての視点で、ArchicadとBIMの導入効果を説明してくれた。「先ほどのクリニックの例もそうですが、プロポーザルの場合も民間のお客様でも同じで、われわれ営業にとっては設計した建物への評価もさることながら、お客様がその“打ち合わせそのもの”に満足してくださるか、がすごく気になるわけです。その意味で、BIMは本当に素晴らしく効果的で、お客様の打ち合わせへの満足感は大きく向上した、と感じています。ただ、最近は前のようにモデルさえ作っておけば──というわけにはいかなくなりつつあります。では次の一手は何なのか? 図面作成なのか、FMなのか。そして、それをいかにして明確なお客様のメリットとしてリターンしていくのか……。まだまだ挑戦は続きますね」。伊藤氏がそう言うと、大旗氏も大きく頷き、さらに言葉を続けた。

「当社の社名に入っている“連合”という言葉を、私はとても大切にしています。企業理念にも“人と建築の交わりを求めて”とありますが、私たちは建築設計という行為を通して、クライアントやゼネコン、建物を使ってくれる人たちと一緒になって、みんなが満足できるような建物を作っていくわけです。BIMにせよ、2D設計にせよ、その他の新しい技術にせよ、そのために役立てていくことがいちばん重要なのではないでしょうか。ですから──これは特に若手社員に言いたいのですが、新しいことに対しては積極的にチャレンジして欲しい。ただのサラリーマンとしてではなく、一人のクリエイターとして、どこまでも知性を磨き上げる努力を続けていって欲しいのです。そうしたチャレンジに必要なことなら、何であれ、会社としてはできる限りサポートしていきます」。

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